精神科の入院について
病気の程度によっては、入院での治療が望ましい場合もあります。精神科への入院の仕組みや、入院ではどのような治療を受けられるのか、入院している人の権利などについて紹介します。
入院治療が考慮されるのは?
こころの病気は多くの場合外来で治療を受けることになりますが、以下のような場合には入院治療が考慮されることがあります。
-
精神症状が重い場合
外来や訪問診療では治療が難しいぐらいに症状が重いとき -
身体的に入院治療が必要とされる場合
急性薬物中毒や、著しい低栄養状態、意識障害など -
自殺の危険が高い場合
強い希死念慮があり、自殺の危険が切迫しているとき -
他者へ危害をおよぼす危険が高い場合
たとえば、幻聴の命令に従って他人を傷つけるようとするなど -
治療上、環境を変えることが望ましい場合
さまざまな事情により、自宅では心理的に休めないような場合など
入院中に行われる治療
入院中には、主に以下のような治療が行われます。
- 休養、生活リズムの改善:バランスのとれた食事と規則正しい生活、清潔の保持など
- 精神療法、話の傾聴:医師の診察、看護師や精神保健福祉士、公認心理師などによる傾聴や助言、認知行動療法などの心理療法など
- 薬物療法:効果や副作用を確認しながら、一人ひとりに最適の薬の種類、量を調整します
- 環境調整、必要なサービスの導入・調整:退院後の療養環境の調整やご本人が望む地域生活のために必要なサービスの導入や調整を行います
- リハビリテーション:作業療法など、退院後の生活に向けたリハビリテーションを行います
- 体の検査・治療:体の病気による精神症状もあり、精神疾患に身体疾患が合併することもあります
- その他、体の病気の治療、心理教育(疾病教育)、社会生活技能訓練(SST)など、一人ひとりの病状や本人の希望に応じて治療を提供します
精神科の入院形態
精神科の入院には大きく分けて3つあります。本人が自ら入院に同意する「任意入院」、家族等のうちいずれかの者の同意による「医療保護入院」、都道府県知事の権限による「措置入院」に分けられます。こうした入院制度は精神保健福祉法で定められています。
このうち、本人が入院の必要性を理解し、自らが選択して入院する「任意入院」が最も望ましいものです。任意入院以外の場合は、本人の意思に反して入院をすることになりますが、そのような入院の際には、「告知義務」があり、十分に説明を受けることとなっています。
任意入院
患者本人に入院する意思がある場合、任意入院となります。
症状が改善し、医師が退院可能と判断した場合や、患者本人が退院をした場合に退院となります。
医療保護入院
精神障害であり、医療と保護のために入院の必要があると判断され、患者本人の代わりに家族等が患者本人の入院に同意する場合、精神保健指定医の診察により、医療保護入院となります。連絡のとれる家族等がいない場合、代わりに市町村長の同意が必要です。
応急入院
精神障害であり、医療と保護のために入院の必要があると判断されたものの、その家族等の同意を得ることができない場合には、精神保健指定医の診察により、72時間以内に限り、応急入院指定病院に入院となります。
措置入院
2名以上の精神保健指定医の診察により、精神障害のため自分を傷つけたり他人に危害を加えようとするおそれがあると判断された場合、都道府県知事の権限により措置入院となります。
入院の処遇について
精神科に入院したときの権利
人権は国民が平等に持っている権利であり、どのような場面においても尊重されなければならないものです。人権には、自分の意思で、自らの行動や、生き方を選ぶことも含まれています。
病気の悪化によって入院しなければ心身の安全が守れない状況においては、本人の意思にかかわらず入院治療を開始したり、生命を守るためにやむを得ず本人の行動を制限することがあります。
このような場合においても、人権が適切に守られたうえで、医学的な必要性についての厳格な判断と、法的に定められた手続きに則って行われる必要があります。
開放処遇と閉鎖処遇について
精神科医療機関では、病棟の出入りが自由にできる構造の開放病棟と出入り口が常時施錠され、病院職員に解錠を依頼しない限り、入院患者が自由に出入りできない構造の閉鎖病棟があります。
入院患者の処遇は、患者の個人としての尊厳を尊重し、その人権に配慮しつつ、適切な精神医療の確保及び社会復帰の促進に資するものでなければなりません。 任意入院者においても開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合に関しては、閉鎖病棟を利用する場合がありますが、書面にて本人の同意を得ることが必要とされています。
隔離、拘束について
本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に、その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として精神保健指定医の判断で隔離、拘束が行われる場合があります。
ただし、こうした行動制限は必要最低限のものとされ、行動制限を行った場合は毎日診察してその必要性を判断したり、「行動制限最小化委員会」を設置して行動制限をできるだけ減らせるよう検討するなど、適切に行うものとされています。
いかなる場合でも制約されない権利
入院の形態に関わらず、たとえ精神保健指定医の判断による行動制限がある場合でも、絶対に制約されない入院中の方の権利があります。
-
信書の発受(手紙を出したり、受け取ること)
本人の同意なしに病院職員が手紙を開封し中身を閲覧することはもちろんのこと、手紙を出したり受け取ることの制限は禁止されています。ただし、明らかに異物が入っていると疑われる場合は、病院職員の前で本人が開封し、異物を取り除くことがあります。 -
都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、入院中の方の代理人である弁護士との電話
電話が明らかに本人の病状に影響がある場合は制限をすることがありますが、たとえその場合であっても必ず十分な説明をされなければなりません。
ただし、(1)都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、(2)入院中の方の代理人である弁護士、との電話は、制限を受けることはありません。 -
都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、入院中の方の代理人である弁護士、本人又は家族等の依頼により本人の代理人になろうとする弁護士との面会
2.の電話と同様、面会が明らかに本人の病状に影響がある場合は制限をすることがありますが、たとえその場合であっても必ず十分な説明をされなければなりません。
ただし、(1)都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、(2)入院中の方の代理人である弁護士、(3)本人又は家族等の依頼により本人の代理人になろうとする弁護士、との面会は、制限を受けることはありません。
告知義務
入院する際、入院の種類(任意入院、医療保護入院、措置入院)に関わらず、入院の種類、入院中の制限や権利、退院の請求等について、十分な説明が口頭及び書面にて告知され、本人に手渡されることになっています。
処遇改善請求・退院請求
ときに入院中の方が受けている処遇や治療に納得がいかない場合があるかもしれません。 たとえば、病状が改善したにも関わらず処遇が改善されない、病状について十分な説明が受けられない、退院を求めたが納得のいく説明もなく入院が継続しているなどの場合です。
もちろん、まずは主治医と十分に相談したり、ときには病院の精神保健福祉士等の病院職員に相談することが必要です。しかし、それでも改善されない場合は、都道府県知事に対し「処遇改善請求」や「退院請求」をする権利があります。
こうした請求は、入院中の本人やその家族等(その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合にあっては、その者の居住地を管轄する市町村長)がすることができます。連絡先は病院内の見やすい場所に掲示され、入院時には書面で受け取ることとなっていますが、分からない場合は病院の精神保健福祉士等の病院職員に確認してください。
精神科病院内にある公衆電話等に、請求の窓口となる機関の電話番号・住所が掲示されています。たいていの地域では、都道府県または政令市の精神保健福祉センター等が窓口になっています。請求された内容は、精神医療審査会にて検討されます。
精神医療審査会とは
精神科病院に入院中の方に適切な医療が提供されているか、人権侵害が行われていないかについて調査・審査をします。審査会の委員は医師、法律家、有識者等で構成されています。
精神科病院の管理者から医療保護入院の届出、措置入院者・医療保護入院者の定期病状報告があったとき、その入院の必要性が適切かどうか審査をします。
精神科病院に医療保護入院中の方、措置入院中の方、あるいはその家族等から退院請求や処遇改善請求があったとき、その処遇が適切かどうか審査します。必要な場合には精神医療審査会は病院に対して指導をします。