てんかん
「てんかん」とは
脳の神経細胞(ニューロン)は、その数は数百億ともいわれますが、基本的に電気的活動を使って情報伝達を行っているため、強い電気刺激により異常で過剰な電気活動(電気発射)を起こす性質があります。「てんかん発作」は、このニューロンの電気発射が外部からの刺激なしに自発的に起こる臨床症状を指し、後述するような様々な発作症状を示します。一方で、「てんかん」は、この「てんかん発作」をくりかえし起こすことを特徴とする脳の病気と定義されます。
てんかんは、出生時の低酸素脳症、脳の先天性形成異常、頭部外傷、脳卒中、脳腫瘍、アルツハイマー病、脳炎など病変(原因)が明らかな「症候性てんかん」と、病変を認めず、むしろてんかんになりやすい体質をもつことにより発症する「特発性てんかん」に分けられます。
乳幼児から、小児、学童、思春期、成人、高齢者のいずれの年齢層でも発症する可能性があり、特に小児と高齢者で発症することが多いといわれています。
重症度は千差万別で、小児期に発病し数年に一度程度の発作で成人になれば完治してしまう良性の特発性てんかんがある一方、頻繁に発作をくりかえし様々な脳機能障害が進行する難治の症候性てんかんもあります。しかし全体としては、60~70%の患者さんは抗てんかん薬の服用で発作は止まり、大半の患者さんは支障なく通常の社会生活をおくることができます。また薬で発作が抑制されない場合でも、外科手術で発作が完治することや症状が軽くなることもあります。
てんかんの特徴
てんかんは、性別や人種を問わず発症し、患者数も100人に1人と、誰もがかかる可能性のあるありふれた脳の病気の一つで、古くからその存在が知られていました。てんかんの原因や治療がわからなかった時代は、全身のけいれん発作に代表されるてんかん発作は人々にとって恐怖を与え、誤解や偏見の対象となっていました。しかし、てんかんの原因が明らかとなった19世紀後半、治療法が確立した20世紀以降も未だにてんかんに対する誤解や偏見が残っていることもあります。
てんかんに関する診断や治療は日進月歩であり、てんかんのある人や家族のみならず、周囲の人々や支援者、医療スタッフもてんかんに対する正しい知識を身につけることがこのような問題の解決に役立つと思われます。
てんかんのサイン・症状
「てんかん発作」の症状は、脳のどの範囲で異常な電気発射が起こるかにより多彩です。たとえば脳の一部で起こった場合(焦点発作/部分発作)では、光がチカチカ見える、手がピクピク動くなど、胃のあたりから胸やけのような感覚がこみ上がってくるなどの患者さん自身が感じられる様々な症状を示すことがあります(前兆症状ともいいます)。電気発射がさらに広がると、患者さん自身は発作の間意識がなくなり周囲の状況がわからない状態となります。一点を凝視して動作が止まって応答がなくなるなどの様子が外部から観察されますが、症状が目立たず周囲の人にも気づかれないこともあります。そこからさらに電気発射が脳全体に広がると、全身のけいれん発作(強直間代発作)になります。
脳全体が一気に興奮する発作(全般発作)では、前兆症状なく、突然に体の一部あるいは全体が一瞬ピクンと動くミオクロニー発作や、突然の強直間代発作や、突然力が抜けバタンと倒れる脱力発作、ボーっとする欠神発作などの症状が起きます。
また、てんかんのある人すべてにではないのですが、てんかん発作以外にも自閉スペクトラム症、注意欠陥多動症などの神経発達症や知的障害、身体障害、高次脳機能障害、精神症状が併存することもあります。
てんかんの治療・支援
てんかんは、一旦診断されるとその後長期間服薬を必要とすることが多いため、初期診断で、本当にてんかんなのかどうか、ほかに治療が必要な原因はないのかを見極めたうえで、長期的な治療の見通しを立てることが大切です。てんかんの診断には何よりも発作症状がてんかん発作として矛盾しないのか(てんかん以外の病気による、てんかん発作と似た発作症状の可能性はないのか)、焦点発作(部分発作)なのか全般発作なのかといった発作症状に関する問診を詳しく行うことが何よりも重要です。そのため、本人は勿論、発作を目撃した人からの情報も診察には重要です。最近ではスマートフォンが普及し、すぐに動画を撮影することが可能ですので、発作の様子を撮影した動画を診察の際に持参して診察医に直接みてもらうのも診断をする上で有効です。問診以外にも脳波とMRI検査を行い、てんかんの診断と原因を確認することがあります。
てんかん発作で意識が消失したり、身体のコントロールがつかなくなることは、患者さんにとって社会生活上最も大きな障害となる症状で、事故にあう危険はもちろん、就労や就学、あるいは自動車運転などに際し大きなハンディキャップとなります。従っててんかんの治療は、てんかん発作の抑制、特に生活に支障を与える発作の回数をいかに減らせるかが主要な目標となります。具体的な治療方法としては、抗てんかん薬の内服治療になります。発作症状や年齢や性別、併存疾患やアレルギー体質、内服中の他の薬との相互作用などを総合的に検討して、内服する抗てんかんが決定されます。抗てんかん薬は毎日飲み続ける必要があり、自己判断で薬を中断しないことや十分な睡眠時間を確保することが、てんかん発作を防ぐうえで重要です。また、中には先に述べたとおり外科治療で完治を期待できる場合もあり、早期に適切な診断を行うことも大切なことです。
てんかんをもつ人にとって、発作が起こっている時間は通常数秒から数分間にすぎないため、発作が起こっていないその他のほとんどの時間は普通の社会生活をおくることが可能です。従って、病気の特性を周囲の人がよく理解し、過剰に活動を制限せず能力を発揮する機会を摘み取ることのないよう配慮することも、てんかんをもつ人に対する支援を行う上で大切なポイントです。
またてんかんをもつ人は、小児では発達や就学、成人では就労や自動車運転、女性では妊娠と出産など、生活上のさまざまな問題に対する継続的なサポートを必要としています。また発作の止まらない患者さんでは、くりかえすてんかん発作による脳機能障害や心理・社会面の障害に対する支援も重要で、様々な福祉制度を活用することも求められます。
てんかん全国支援センター(https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/)や日本てんかん協会(https://www.jea-net.jp/ )のウェブサイトからは、てんかんに関する情報を得ることができます。
関連リンク てんかん地域診療連携体制整備事業 てんかんについて 日本てんかん協会