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発達障害(神経発達症)

「発達障害」とは

発達障害は、脳の働き方の違いにより、物事のとらえかたや行動のパターンに違いがあり、そのために日常生活に支障のある状態です。発達障害には、知的能力障害(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(学習障害)、協調運動症、チック症、吃音などが含まれます。同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、他の発達障害や精神疾患を併せ持つこともあります。
 

発達障害の特徴

知的能力障害

知的機能の水準によって日常生活への適応に困難がある状態を言います。概念的領域(読み書きなど)、社会的領域(社会的スキルや問題解決など)、実用的領域(身辺自立など)などの困難さで、重症度を判断します。
 

自閉スペクトラム症

言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。また、特定のことに強い関心をもつ、こだわりが強い、感覚が過敏であるといった特徴を持ち合わせます。
 

注意欠如・多動症

発達年齢から期待される水準に比べて、学校、家庭、職場などの複数の場面で、落ち着きがない、待てない、注意が持続しにくいといった特性が見られます。
 

限局性学習症

全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。
 

協調運動症

粗大運動および微細運動が不器用であるなど協調運動に困難であり、日常生活に支障を来している状態を言います。
 

チック症

チックは、思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声です。さまざまな運動チック、音声チックが1年以上にわたり強く持続し、日常生活に支障を来すほどになる場合にはトゥレット症とよばれます。
 

吃音

滑らかに話すことができないという状態をいいます。音をくりかえしたり、音が伸びたり、なかなか話し出せないといった、さまざまな症状があります。就学前にみられる吃音は数年の間に軽減することが多いのですが、長期に持続する子どももいます。吃音は体質的な要素が強いことが知られています。

 

発達障害のサイン・症状

自閉スペクトラム症

目を合わせない、指さしをしない、微笑みかえさない、あとおいがみられない、ほかの子どもに関心をしめさない、言葉の発達が遅い、こだわりが強いといった様子がみられます。保育所や幼稚園に入り、一人遊びが多く集団活動が苦手なことや、かんしゃくを起こすことが多いことで気づかれることもあります。
言葉を話し始めた時期は遅くなくても、自分の興味のあることばかりを話し、相互的に言葉をやりとりすることが難しい場合もあります。また、電車、ミニカーやビデオなど、自分の興味のあることには、毎日何時間でも熱中することがあります。初めてのことや決まっていたことが変更されることは苦手で、環境になじむのに時間がかかったり、偏食が強かったりすることもあります。
思春期や青年期になると、微妙な対人スキルを求められることも増えますし、学習課題においても多様な能力を求められる機会が増えます。就職してから仕事が臨機応変にこなせないことや対人関係などに悩み、家庭生活や子育ての悩みを抱えることもあります。
 

注意欠如・多動性障害(ADHD)

子どもの多動性-衝動性は、落ち着きがない、座っていても手足をもじもじする、席を離れる、おとなしく遊ぶことが難しい、しゃべりすぎる、順番を待つのが難しい、他人の会話やゲームに割り込む、などで認められます。不注意の症状は、学校の勉強でミスが多い、課題や遊びなどに集中し続けることができない、話しかけられていても聞いていないように見える、やるべきことを最後までやりとげない、課題や作業の段取りが苦手、整理整頓が苦手、宿題のように集中力が必要なことを避ける、忘れ物や紛失が多い、気が散りやすい、などがあります。
大人になると、計画的に物事を進められない、そわそわとして落ち着かない、他のことを考えてしまう、感情のコントロールが難しいなど、症状の現れ方が偏しますが、一般に、落ち着きのなさなどの多動性-衝動性は軽減することが多いとされています。また、不安や気分の落ち込みや気分の波などの精神的な不調を伴うこともあります。
 

トゥレット症

まばたきをする、顔をしかめる(運動チック)や咳払いや舌打ち(音声チック)などのチックが一時的にあらわれることは多くの子どもにみられることです。そのため、特に指摘をせず、経過をみます。しかし、多彩な運動チックと音声チックが1年以上にわたり強く持続し、日常生活に支障を来すほどになる場合にはトゥレット症と呼ばれます。飛び上がる、自分の体や足を叩く、しゃがむ、おなかに力をいれる、言葉を繰り返したり、言うのもためらわれる言葉を言ってしまうなどの複雑な動きや発声を伴うこともあります。症状は典型的には10-15歳ぐらいに一番強くなりますが、成人になっても強い症状を継続することもあります。

 

発達障害の治療・支援

自閉スペクトラム症

個別や小さな集団での療育を受けることによって、対人スキルの発達を促し、適応力を伸ばすことが期待されます。視覚的な手がかりを使ったり、先の見通しを持ちやすく提示したりすることで、子どもは安心して過ごしやすくなり、情緒的にも安定してきます。そのなかで基本的な日常生活のスキルや言葉や言葉以外の手段を通したコミュニケーションのスキルを獲得していきます。また、医療関係者などの専門家とともに、子どもの歩みを養育者とともに見守り、可能な養育上の工夫を一緒に考えていきます。
自閉スペクトラム症を治癒する薬はありません。睡眠や行動の問題が著しい場合や、てんかんや精神的な不調に対して、薬物療法を併用する場合もあります。ストレス要因や生活上の変化がないかを確認し、環境調整を試みることも大切です。
幼児期から成人期を通して、身近にいる養育者や配偶者が本人の特性を理解することがとても重要です。また、学校の先生や職場の同僚などの理解も大切です。人は誰しもひとりで生きていません。自閉スペクトラム症の当事者にとっても支えの輪があることが大切なのです。
成人を対象とした対人技能訓練やデイケアなどのリハビリテーションを行っている施設もあります。また、都道府県や政令指定都市ごとに発達障害者支援センターが設置されており、自閉スペクトラム症の当事者を対象にしたグループ活動を提供したり、生活自立・就労等の相談に応じています。
 

注意欠如・多動症(ADHD)

幼児期・学童期には環境を整えて集中して課題に集中しやすいようにする、褒め方を工夫するなどの方法で、増やしたい行動を増やすことが大切です。勉強などに集中しないといけないときには本人の好きな遊び道具を片づけ、テレビを消す。集中しないといけない時間は短めに、一度にこなさなければいけない量は少なめに設定し、休憩をとるタイミングをあらかじめ決めておく、やらないといけないことはToDoリストに書いたり、簡潔にわかりやすい言葉で伝えたりします。しかし、ADHDの子どもたちは、行動を切り替えるのが苦手であったり、意に反すことにかんしゃくを起こしたりすることも多いので、養育者も、「ダメでしょ」「どうして・・・なの」などと否定的な言葉で感情的に反応してしまいがちです。ADHDについて知り、増やしたい行動や減らしたい行動を整理し、うまく褒めながらよりよい行動を導いていくためには、養育者のスキルを伸ばすことや同じように頑張っている親同士のつながりや心の支えが大切です。養育者が小集団でADHDへの理解を深め、対応するスキルを身につけるためのペアレント・トレーニングも実施されています。環境調整や行動からの取り組みを行っても日常生活における困難が持続する場合には薬物療法を併用します。薬物療法は症状を緩和するもので根治的な手段ではありませんので、効果と副作用のバランスに注意しながら選択します。成人になってからも、作業にミスが多かったり、行動を計画的に順序だてて行うことが苦手、いつも心が落ち着かない、感情のコントロールが苦手などの症状があることもあります。子どもと同様に、環境調整、行動療法や薬物療法が実施されます。精神的不調を伴っている場合には、その治療も併せて実施されます。
 

限局性学習症(学習障害)(LD)

学習症の子どもに対しては、教育的な支援が重要になります。読むことが困難な場合は大きな文字で書かれた文章を指でなぞりながら読んだり、文章を分かち書きにしたり文節に分けることも有用です。音声教材(電子教科書)を利用することも可能です。書くことが困難な場合は大きなマス目のノートを使ったり、ICT機器を活用したりすることも可能です。計算が困難な場合は絵を使って視覚化するなどのそれぞれに応じた工夫が必要です。学習症は、気づかれにくい障害でもあります。子どもにある困難さを正確に把握し、決して子どもの怠慢さのせいにしないで、適切な支援の方法について情報を共有することが大事です。
 

トゥレット症

体質的なチックで、その症状を抑制することはごく短時間しかできません。また、表面に見えるチックだけではなく、喉がしまる感じがしたり、体がむずむずとしたり、体がむずがゆいなどのチックに先駆けての前兆の苦痛もありますし、お腹に力が入るなど目立ちにくいチックもありますし、チックに伴う疲労も著しいものです。本人の苦痛の性質を理解することが大切です。チックが起こりそうな衝動が苦痛であったり、チックが現れそうな衝動が起こったときにチックと拮抗するような動きをする(ハビットリバーサル)や薬物療法が実施されます。症状の緩和には、統合失調症の薬などが有効であることが知られています。薬物療法が奏効しない著しく重症なチックの場合には、脳深部刺激療法が検討されることがあります。
 

吃音

吃音の治療として、言語聴覚療法や認知行動療法が実施されます。学校で、からかいやいじめの対象となっていないか、また学校などの発表などの場面が本人の苦痛となっていないかを把握し、環境調整を行うことも大切です。
 

関連リンク
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部

国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センター

国立特別支援教育総合研究所発達生涯教育推進センター